学長交渉において「新潟大学科学者行動規範」を再確認しました

去る2月9日に行われた団体交渉の冒頭において、「新潟大学科学者行動規範」について学長に見解を求めました。少し長くなりますが、この質問には次のような背景があります。

閣議決定で防衛費増大の方向が打ち出されたことが、現在さかんに報道されています。経済安全保障推進法も昨年5月に成立しました。重要な軍事技術にかかわる特許出願を非公開にできる制度の創設や、安全保障にかかわる「特定重要技術」の大規模な研究開発を推進するものだということです。

いわゆるデュアルユースをキーワードとして、我々の研究成果をどのように用いるのか、軍事か、平和的利用かという議論が広がっています。安全保障技術研究推進制度(2014年)・防衛省の新たな競争的資金制度も始まっています。

これに対して、大学研究者の側からは日本学術会議によって「軍事安全保障研究に関する声明」(2017年3月14日)が出されました。これは安全保障技術研究推進制度の事実上の歯止めになったものでした。

ここには、次のようにあります。

研究成果は、時に科学者の意図を離れて軍事目的に転用され、攻撃的な目的のためにも 使用されうるため、まずは研究の入り口で研究資金の出所等に関する慎重な判断が求められる。(…)

大学等の各研究機関は、施設・情報・知的財産等の管理責任を有し、国内外に開かれた自由な研究・教育環境を維持する責任を負うことから、軍事的安全保障研究と見なされる可能性のある研究について、その適切性を目的、方法、応用の妥当性の観点から技術 的・倫理的に審査する制度を設けるべきである。学協会等において、それぞれの学術分野 の性格に応じて、ガイドライン等を設定することも求められる。

この部分に関して、新潟大学はこの声明に先立つ2015年(平成27年)10月16日付で「新潟大学の科学者行動規範」を一部改正し、「4.軍事への寄与を目的とする研究」において軍事への寄与を目的とする研究を行わないことを定めています。

科学者はその社会的使命に照らし教育研究上有意義であって人類の福祉と文化の向上への貢献を目的とする研究を行うものとし軍事への寄与を目的とする研究は行わない。

この「行動規範」は、学術会議内に設置された委員会での論点整理(2016年7月28日)においても紹介されており、新潟大学は国立大学の中で最も早くにこの問題について対応してきた大学に数えられます。

以上のような経緯と現在の動向を踏まえ、牛木学長には次の2点を質問しました。

  • 新潟大学として「4.軍事への寄与を目的とする研究」を遵守する姿勢に変わりはないか。
  • 日本学術会議は何らかの審査制度やガイドラインを設けることを提言しているが、何らかの制度を設けるなど何か今考えていることはあるか。

牛木学長からは次のような回答がありました。

「新潟大学の科学者行動規範」「4.軍事への寄与を目的とする研究」について、この考えはなにも変わっていない。新潟大学の規範として変えるつもりはない。

今の動向は研究インテグリティ・研究セキュリティという考えに踏み込んでいる。G7あるいは5か国が中心になった研究インテグリティの声明が出されている。来年度G7に際して会議が開催されることになっており、国立大学協会はこの会議への参加を国から要請されている。私は協会の副会長なので、私が管轄する国際交流委員会の下にこのインテグリティを扱う専門委員会を置いたのが昨年末のこと。それをもとに国立大学協会として研究インテグリティの声明文を私も中心になって先月出した。国立大学そのものが、研究インテグリティ・研究セキュリティについてグッド・プラクティスを出しながら、そしてG7での会議の中で学術会議と一緒に主導権を握っていくという作業を始めているところだ。これについては今大きなうねりがある。それ(G7の会議・国大協の動き)と連動して、新潟大学でも場合によってはある種のルールを制定することにしたいと思っている。

先週、ドイツの日独科学技術合同会議(日本の文科省・内閣府がやっているもの)で、国大協の研究インテグリティ・研究セキュリティの声明文を報告するために出席した。現在国立大学における研究インテグリティ・研究セキュリティをめぐる動きについては一番早いところを理解できていると思う。

 

「科学者行動規範」を今後も堅持していくと牛木学長が明言されたことを歓迎するとともに、場合によっては今後どのような主体によって、どのようなルール制定が行われていくのか、引き続き注視していく必要があります。

*時系列の誤りについての指摘を受け、文面を修正しました(2022年2月28日)

 

参考文献:小森田秋夫「日本学術会議は見解を変えたのか」『世界』2022年10月号

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